「IR(統合型リゾート)」とは何か?」を考える=ギャラクシーマカオ取材記

昨今、新聞やニュースの見出しなどでしばしば見かける「IR(アイアール)」という言葉。「Integrated Resorts」という英語の略語で、日本語では「(カジノを含む)統合型リゾート」と訳されることが一般的だ。日本でも導入が検討されており、誘致に名乗りをあげる自治体や参入意向を明かす企業もあり、今後ますます注目度が高まるキーワードといえる。ただし、現時点で日本には存在しないため、なかなかその姿をイメージできないという方も多いだろう。

日本の周囲を見渡せば、東京から直行便でおよそ4時間の位置にあるマカオでIRのオープンラッシュが続いている。マカオでIRが登場するきっかけとなったのが、2002年のカジノ経営ライセンスの対外開放だ。マカオ政府は従来のギャンブル都市から脱却し、複合リゾート都市への進化を掲げ、その切り札としてIRの誘致を進めてきた。

ザ・リッツ・カールトン・マカオ51階からギャラクシーマカオ全体を俯瞰。屋上に広がるのは大型プール施設のグランドリゾートデッキ-本紙撮影

ザ・リッツ・カールトン・マカオ51階からギャラクシーマカオ全体を俯瞰。屋上に広がるのは大型プール施設のグランドリゾートデッキ-本紙撮影

マカオは山手線の内側のおよそ半分に相当する面積30万平方キロ、人口65万人という小さな都市で、産業の柱はツーリズムを中心とする第三次産業だ。カジノ経営ライセンスの対外開放が決まった2002年の訪マカオ旅客数(インバウンド)は1153万人だったが、IR誘致後の2015年には2.7倍の3071万人に達した。また、GDPは6.3倍の588億パタカ(日本円換算:約7500億円)から3687億パタカ(約4.7兆円)にまで飛躍的な成長を遂げている。

マカオ経済に絶大なポジティブインパクトを与えたIRとは、一体どのようなものなのだろうか。今回、本紙記者が7月後半の週末3日間に渡ってマカオ・コタイ地区にあるIR「ギャラクシーマカオ」を取材する機会を得た。実際に身を置いて感じたことや、運営企業関係者の声を交えながらリポートしたい。

客席数3000席のブロードウェイシアターで毎日上演される華やかなショー「VIVA La Broadway」の1シーン-本紙撮影

客席数3000席のブロードウェイシアターで毎日上演される華やかなショー「VIVA La Broadway」の1シーン-本紙撮影

ギャラクシーマカオはマカオのカジノ経営ライセンスを保有する6陣営の一角にあたる香港資本のギャラクシーエンターテイメント社(GEG)が運営している。2011年5月に開業した後、2015年5月に第2期拡張部及び隣接区画にブロードウェイマカオ棟がオープンし、面積は当初の2倍となる110万平米にまで拡大した。東京ドームに例えるなら、実に23個分にも相当する。なお、同社はコタイ地区において同業の中で最大規模の開発用地を有しており、第3期、第4期の拡張計画を準備中という。

ギャラクシーマカオは、宿泊、ショッピング、飲食、エンターテイメント、レジャー、MICE、カジノといった異なるジャンルの施設が一堂に会する本格的なIRとなる。

マカオ唯一の日系ホテルとなるホテルオークラマカオのインペリアルスイートのベッドルーム-本紙撮影

マカオ唯一の日系ホテルとなるホテルオークラマカオのインペリアルスイートのベッドルーム-本紙撮影

特筆すべき点をジャンルごとにいくつか挙げてみよう。世界でも他に類を見ないのが、ザ・リッツ・カールトン、JWマリオット、バンヤンツリー、ホテルオークラなど6つの著名ブランドのホテルを併設するところだろう。その総提供客室数約4000室にも上る。ショッピングアーケードにはハイエンドブランドからファストファッション、ドラッグストア、土産店に至るまで200店が軒を連ねる。直近ではマカオ初のアップルストアが出店したことでも話題となった。飲食店は120店舗あり、ミシュランガイドで星を獲得した高級中華やイタリアンの名店、インターナショナルビュッフェ、マカオのダウンタウンエリアで人気のローカルグルメの老舗までラインナップも幅広い。キラーコンテンツ的存在といえるのが7万5000平米の広さを誇る世界最長の流れるプールや世界最大のウェーブプールから成るグランドリゾートデッキだ。宿泊客専用とあって、これを目当てにギャラクシーマカオのホテルに滞在する家族連れも多く、夏季の客室稼働率が9割を上回る大きな原動力となっているという。ラスベガス型の華やかなショーを上演する客席数3000席のシアターに10スクリーンの3Dシネコンといったエンターテイメント施設も充実している。見どころを挙げればきりがなく、とにかく規模が大きいので1日で全てを見て回るのことはとてもできない。

高級リゾートスパの代名詞的ブランド、バンヤンツリースパも併設-本紙撮影

高級リゾートスパの代名詞的ブランド、バンヤンツリースパも併設-本紙撮影

IRなんて、カジノというと聞こえが悪いから横文字にしただけではないかという方もいらっしゃるだろう。しかし、ギャラクシーマカオに滞在した実感でいうなら、カジノの存在を意識することはほとんどなかった。夏休みの週末とあってか、家族連れの姿が多かったのも印象的で、日本のテーマパークに来たかのような感覚だった。

この件について、GEGインターナショナルディベロップメント部門のジェーン・ツァイ副総裁にお話を伺ったところ、明快な答えを得ることができた。ギャラクシーマカオはマスをターゲットとした「リゾート」がメインコンセプトであり、カジノはあくまでも要素の1つにすぎないという。カジノを建物の中央に、ノンゲーミング(非カジノ要素の)施設をカジノの外周や屋上に配置することで、エントランスからカジノを通ることなく、ノンゲーミング施設にアクセスできるような導線になっているといい、カジノで遊ばなくてもリゾートを十分に満喫していただけると胸を張った。

大勢の買い物客でにぎわうショッピングアーケード-本紙撮影

大勢の買い物客でにぎわうショッピングアーケード-本紙撮影

ツァイ氏によれば、ギャラクシーマカオの来場者数は1日平均6万人というから、年間にすると2190万人にも達する。高い集客力を誇る理由は何かという問いに対しては、メインターゲットとして狙う中国広東省や香港市場の旅客のニーズを反映した南国ビーチリゾート風のテーマ設定と彼らにとって安心感がありメジャーとされる各種テナントの誘致、そして地元マカオのローカル客の取り込みも意識した施設ラインナップとしたことを挙げた。

ちなみに、ギャラクシーマカオでは1万8000人が働いているという。地域経済における雇用面でのインパクトも見逃せない。

近い将来、日本にもIRが上陸するかもしれない中、夏休みや秋の連休を利用して家族旅行でマカオを訪れ、本物のIRを肌で体験してみるのも一興といえる。

最新のミシュランガイド香港マカオ版で1つ星評価を獲得したイタリアンレストラン、オット・エ・メッツォ・ボンバーナのインテリア-本紙撮影

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