港珠澳大橋―珠江デルタ一体化のシンボル

マカオへの影響

橋の完成によりマカオが得るもの、失うものは何であろうか。すでに香港や広東省から日帰り可能な位置にあるマカオは、宿泊を伴う旅客の増に向けて官民共同で取り組んでいる状況。さらに利便性が向上した時、香港をベースにした日帰り旅行先になってしまうという懸念もあり、「マカオ宿泊」をいかに取り込んでいくかが鍵となる。しかし、利便性向上に伴い訪問旅客数も急増することが予想されるため、日帰り客が増えたとしても、それを上回る宿泊客を呼び込める可能性は高い。そのためにも、カジノだけではない「マカオに泊まる必要性」につながる新たな魅力を提供する必要があることはいうまでもない。
もう1つ、マカオ国際空港の位置付けだ。港珠澳大橋の東端は香港国際空港となり、マカオから30分で往来できてしまう。24時間運用という面では同じといえるが、就航都市数、運行本数など、規模の面では到底及ばない。旅客、貨物ともに香港経由が進むことによるマカオ国際空港の地位低下が緊急課題といえる。運輸面では現在香港とマカオを結ぶ高速フェリーの位置付けも気になるところだ。現在、フェリーでの香港・マカオ間の所要時間は約60分。港珠澳大橋の東端はランタオ島だが、そこから既存の高速道路を経て九龍、さらに西トンネルを経由して香港島の上環に至る。マカオからランタオ島まで約30分というところから推計すると、およそ50~60分となるため、互角の戦いとなりそうだ。料金設定および付加サービスの提供により共存可能ともいえる。競合として橋の開通後に香港・マカオ間を結ぶ高速バスが登場する可能性もあるが、需要に応じてフェリー就航先を橋の恩恵が少ない深圳、東莞といった広東省の珠江東側の各都市に振り分けることも生き残り策といえるだろう。上述のように香港ナンバーの自家用車はマカオへ入境できないため、自家用車への流出については大きな影響はなさそうだ。

2016年マカオのあるべき姿

新交通システム(LRT)によるイミグレーション島への乗り入れなどが計画される (c) GIT 運輸基建辦公室

2016年まであと約3年。これまでの常識を大きく覆すことになる港珠澳大橋の開通を前に、マカオではチャンスを最大化するための試行錯誤が必要となる。2016年にはコタイ地区の開発計画も完成形に近づき、横琴新区も目覚ましい進化を遂げているに違いない。橋の開通を一過性のブームと捉えるのではなく、中長期の視野に立ち、持続的発展可能なマカオらしい独自ロードマップを示していくことこそが期待される。

日本企業の関わり

港珠澳大橋は中国の国家プロジェクトであり、中国の土木技術の粋の結晶ともいえる存在。港珠澳大橋管理局のホームページによると、中国や香港の大手土木関連企業の名前がずらりと並ぶ。その中に、日本企業の名前が1つだけ存在する。株式会社長大だ。中国の大手建設会社「中国交通建設(中国交通建设股份有限公司)」の子会社で高速道路設計等を手掛ける「公規院(中交公路规划设计院有限公司)」とともに(JV)、主体部橋梁のうち15.8キロメートルにあたるDB01工区の測量・地質調査、詳細設計、検討、施行管理業務に携わる。

縁の下で日本の技術にも支えられた港珠澳大橋、2016年の開通はもうすぐ先の未来にある。本紙では今後も引き続き現地マカオで港珠澳大橋に関する取材を行い、最新ニュースを発信していく。

(取材・文:本紙特集班―2012年12月)

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