マカオLRTタイパ線、2021年8月の1日平均乗客数は約1950人…低迷続く

 マカオ初となる本格的な軌道系大量輸送機関(鉄道)として、マカオLRT(Light Rapid Transit)が2019年12月10日に営業運転を開始。今月で開業から22ヶ月目を迎えるが、開業時に予想もしなかったコロナ禍により利用者数は低迷し、事前見通しを大きく下回る状況が続いている。

 タイパ線はマカオLRT第1期プロジェクトの一部で、タイパフェリーターミナル駅と海洋駅の間の9.3キロ、11駅の区間が開業済み。沿線には香港や広東省主要都市との間を結ぶ高速船が発着するタイパフェリーターミナル、マカオ国際空港、広東省珠海市の横琴新区との陸路のボーダーにあたるコタイ・イミグレーション(*2020年8月に中国本土側へ移転、後述)といった陸海空の玄関口のほか、大型カジノIR(統合型リゾート)が密集するコタイ地区、著名観光地のタイパヴィレッジ、高層マンションが建ち並ぶ新興住宅街が存在する。

 このほど運営会社のマカオLRT社が開業後21ヶ月目にあたる今年8月の乗客数データを公表。1日あたり平均乗客数(延べ、以下同)は約1950人で、運賃無料キャンペーンが終了した昨年2月以降で最多だった前月から約650人減。開業初月の2019年12月は3万3000人に上ったものの、2020年1月は1万6000人、2月は最少記録となる1100人まで落ち込み、以降も低迷が続いている。マカオ政府は開業を前に1日あたり平均乗客数予測を約2万人としていた。

 昨年1月以降に乗客数が大きく減少した理由として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に伴う入境制限を含む防疫措置が2020年1月後半から本格的に講じられ、インバウンド旅客数が激減したことが挙げられる。陸海空の玄関口と大型カジノIR集積地区などを結ぶインバウンド旅客が多く見込まれる路線にとって、低迷もやむなしといった状況だ。

 目下、外地からの新型コロナ流入防止を目的とした厳格な入境制限は維持されているが、マカオ及び中国本土における状況が落ち着いてきたことを受け、2020年第3四半期にかけて両地間の往来制限の緩和が進んだ。

 マカオの総インバウンド旅客数に占める中国本土旅客の割合は約7割。中国本土との往来制限緩和を受け、インバウンド旅客数は9月以降に明確な回復傾向が見受けられるものの、そのスピードは緩やかなものとなっている。また、中国本土旅客の出入境ルートもマカオ半島北部にある關閘イミグレーションが大半を占めており、マカオLRTタイパ線の利用増に結びついていないのが現状だ。昨年8月に広東省珠海市の横琴新区との陸路のボーダーにあたるコタイ・イミグレーションの機能が中国本土側の横琴新口岸へ移転したことで、陸路の玄関口と直結という機能がなくなったことも痛手だ。これについては、移転先まで支線を延ばすことでの対応が予定されている。マカオ国際空港とタイパフェリーターミナルの機能が本格的に回復するまでの間、厳しい状況が続きそうだ。実際、マカオLRTタイパ線の利用増にはつながっていない。また、今年5月下旬にマカオと隣接する中国広東省、7月下旬には中国本土各地で新型コロナの再流行が出現。入境制限を含む各種水際措置が強化されたことによるインバウンド旅客減も利用者数に影響したとみられる。ただし、いずれの再流行も約1ヶ月で終息し、水際措置は従前の水準まで緩和されている。一方、香港における流行第4波が5月下旬までに終息。香港・マカオ両政府の間で一定の条件下で隔離検疫免除による往来再開に関する協議が進んでおり、これが実現すればタイパフェリーターミナル発着の高速船需要が生まれることから、マカオLRTの利用者増につながる可能性も期待できる。8月からはマカオ航空を利用してマカオ国際空港へ到着した旅客に対し、マカオLRTの3日間乗り放題パスを贈呈するキャンペーンがスタート。予定枚数は1万枚で、利用者の底上げにつながるものと期待されたが、先述の再流行による水際措置強化と重なり、成果につなげることができなかった。

 このほか、8月は車両故障が一度発生し、約80分にわたってダイヤに乱れが生じた。

マカオLRTタイパ線(資料)=2019年12月10日本紙撮影

 マカオLRTは三菱重工グループの三菱重工エンジニアリング社の全自動無人運転車両システム(Automated Guideway Transit=AGT)を採用。同社がAGTシステムとして、東京の「ゆりかもめ」と同タイプのクリスタルムーバー型AGT車両、信号・列車制御設備、供電設備、通信システム、軌道、メンテナンス設備、ホームドア、料金機械を手掛けた。また、開業後5年間にわたる車両のオーバーホールメンテナンスも担当し、マカオLRTの安定運行をサポートすることになっている。AGTシステムは、電力駆動により完全自動走行する新交通システムで、ゴムタイヤ方式を採用しているため走行が滑らかかつ低騒音であるのが特徴。

 マカオLRT第1期プロジェクトの未開業部分のうち、マカオ半島線(媽閣から西灣湖、南灣湖、新口岸地区、マカオ半島北東部の住宅街を経由して關閘を結ぶ路線)はルート選定が難航するなどしており、本格着工に至っていない状況。現在、タイパ線のマカオ半島側への乗り入れ(タイパ線の海洋駅から西灣大橋を経由して媽閣駅に至る部分)に向けた準備が進むほか、タイパ島北東部にあるマカオ国際空港からマカオ半島東部沖に造成中の埋立地を経由してマカオ半島北端にある關閘を結ぶ全長約9キロの新線計画(東線)についても全線地下を走る地下鉄に類する方式で検討がなされている。タイパ線の蓮花口岸駅と横琴新口岸前の新駅を結ぶ支線(2駅、約2.2キロ)は今年3月に着工済みで、4年以内の完成が目標となっている。蓮花口岸駅付近から分岐する石排灣支線(2駅、約1.6キロ)についてもすでに入札が行われた。

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