和歌山IRに名乗りを上げたマカオの“サンシティグループ”とはどんな企業なのか?

 日本版IR(統合型リゾート)をめぐっては、全国で複数の自治体が立候補する方針を示しており、各候補地で開発と運営を担う事業者(オペレーター)についても国内外の事業者が参入に名乗りを上げている。

 目下、候補自治体がパートナーの選定に向けた準備を進めている。まもなく大きな動きがありそうなのが和歌山県だ。同県では、2020年3月30日に事業者募集要項を公表し、公募をスタート。公募における資格審査に2社が書類を提出し、いずれも審査を通過した。その後、2社とも提案審査書類を提出しており、審査結果(優先権社の選定)が春頃をめどに発表される予定だ。名乗りを上げた2社のうち1社がマカオ勢で、総合エンターテイメント企業のサンシティグループだ。

 サンシティグループといえば、その本拠地マカオでは誰もが知る有名企業で、最も勢いのある企業のひとつに数えられる。マカオを代表するモータースポーツの祭典、マカオグランプリで2019年まで6年連続冠スポンサーを務めたことから、社名やロゴに見覚えがあるという方もいるだろう。

 日本法人もあり、和歌山にプロモーション拠点となる事務所を開設しているが、一体どんな企業なのかいまいち想像できず、気になるという方も多いだろう。マカオの有名企業を日本へ紹介する好機でもあり、現地在住の記者がサンシティグループのマカオ本社や関連施設を訪れ、取材を行った。

サンシティグループが計画している和歌山IRのイメージ(画像提供:Suncity Group)

 サンシティグループの創業は2007年のこと。マカオのカジノ売上がラスベガスを抜いて世界一になった年にあたる。21世紀に入って以降、マカオでは大型IRのオープンラッシュが続き、多くのインバウンド旅客を吸引。マカオ経済も急成長を遂げた。同社はIR施設内にVIPルームを展開する事業からスタートしたため、今もカジノ関連事業者というイメージを持つ人は少なくない。まず、VIPルームで培ったホスピタリティ、宿泊・旅行手配のノウハウをスピンアウトし、それぞれの事業を拡大。続いて、飲食、ショッピング、映画やコンサートといったエンターテイメント領域にも進出。VIPロイヤルティプログラムを充実させる目的があったとされるが、マカオの一般市民が日常生活の中でサンティグループとの接点を持つきっかけにもなった。さらに、海外でIRの開発・運営にも乗り出す。極東ロシア・ウラジオストクで運営管理する「ティグレ・デ・クリスタル」のほか、ベトナムのリゾート地ホイアンでは「ホイアナ」を開発段階から手がけ、今夏にも正式オープン予定(すでにテストオープン中)となっている。事業領域及び事業エリアのダイバーシティ化は今後も進めていくとしており、和歌山IRに名乗りを上げたのもその一環となる。「グローバルツーリズム、コンサートやイベントの企画、統合型リゾートの運営管理、極上の高級ダイニング、ラグジュアリーファッションなど、ほとんどの分野をカバーしている」と自信を示している。

 コロナ禍でマカオのカジノ市場も大打撃を受ける中、業界大手であるサンシティグループにも影響があったことは想像に難くないが、逆境化においても雇用を維持した上、攻めの姿勢を崩していない。その理由を尋ねると、ダイバーシティ化を進めた結果という。ロシアのティグレ・デ・クリスタルや飲食業は順調といい、ティグレ・デ・クリスタルは第2期拡張計画、飲食業は中国内陸都市への進出などを進めているとのこと。

 サンシティグループは今年で創業14年目を迎える。急成長を遂げ、数々の成功を収めた背景には、トップのリーダーシップと従業員の努力があったはずだ。同社はスピリットとして「多元的に革新し、積極的に挑戦する」を掲げている。創業者でCEOのアルビン・チャウ氏はマカオ出身の46歳。常にポジティブな姿勢を示して従業員を鼓舞し、顧客に対して一流のサービスを提供することにこだわっている。そして、地元マカオを愛し、地域貢献に力を注いでいる。取材をしていて感じたことは、現場の従業員一人ひとりがトップのビジョンをしっかりと共有し、生き生きと働いていることだ。バイタリティあふれる若手が管理職としてチームを引っ張り、女性の活躍も光る。取材で話を聞いている中、熱量と本気度が伝わってきた。

 なぜサンシティグループは進出先に日本(和歌山)を選ぶのか、そしてどのようなIRを計画しているのかについては、稿を改めて紹介していきたい。

サンシティグループがマカオで展開する料飲施設の一例(画像提供:Suncity Group)

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