マカオカジノ(ゲーミング)産業発展史

中国返還後のカジノ経営権開放

ヴェネチアンマカオ着工前の初期コタイ地区―本紙撮影

マカオがポルトガルから中国へ返還される以前から、返還後のカジノ独占経営権開放の可能性について多方面から議論や研究が進められていた。事実上、ポルトガル・マカオ政庁はカジノ経営権の独占の打破について検討と準備をしていたといえる。そんな中、1986年に「特別ライセンスを最大3社にまで発給する」ことを明記した法律が立法会を通過する。

1999年12月21日、マカオが中国へ返還された翌日にあたるこの日、初代マカオ特別行政区行政長官のエドモント・ホー氏が国際的なカジノ運営経験を持つコンサルティング会社を招へいし、マカオのカジノ産業の将来についての研究を進める意向を発表。2000年7月、マカオのゲーミング産業の発展、法律、行政法規及び政策についての研究を行うための「マカオゲーミング委員会」が発足。委員会は同年8月に第一回会議を開催し、アーサー・アンダーセン社へマカオのカジノ産業の発展についての研究およびコンサルティング業務を委託し、政府に意見書を提出するよう依頼する。

エドモント・ホー行政長官(当時)とスタンレー・ホー氏。2007年撮影 (c) GCS

2001年8月、マカオ立法会はマカオカジノ業の開放を謳う新法「娛樂場幸運博彩經營法律制度」を可決。ライセンス発給制度、経営条件、入札及び落札企業の経営モデル、株主及び経営陣の資格、ゲーミング税などの主要項目についての原則を規定した。マカオ特別行政区政府は「澳娯」の持つ独占経営権が満期を迎える2001年12月31日を待ち、「ゲーミング・観光業を成長エンジンとする、サービス業を主体とし、その他産業の協調的発展を促す」とする政府の方針に沿い、マカオの経済発展のための新エンジン、長期の持続的発展のための基礎固めとすべく3社へゲーミング業ライセンスを発給するとした。

2001年10月26日、エドモント・ホー行政長官は「娛樂場幸運博彩經營法律制度」についてのより具体的な参入要件等を明示した行政法規「規範經營娛樂場幸運博彩的公開競投、批給合同,以及參與競投公司和承批公司的適當資格和財力要件」にサインを行い、具体的な公開入札プログラムが規定される。同年10月30日、行政長官は応札企業の資格審査や行政長官にライセンス発給についての提案を行うための8名のメンバーから成る「カジノ経営ライセンス第一回公開入札委員会」が発足。

長くカジノ独占経営権を持ちゲーミング業界の発展に努めた澳娯(現SJM)の旗艦施設「ホテルリスボア」―本紙撮影

委員会は11月2日に正式に競争入札の受付をスタート。期日となる2001年12月7日までに21社からの応札があったが、うち3社が期限内に必要な補足資料を準備できなかったため、審査が継続できないという事態となった。応札した企業の資金調達元は主にマカオ、香港、米国、マレーシア、オーストラリア、英国、台湾で、国際的な大型カジノ資本も多かった。

2001年12月31日、3社へのライセンス発給ができなかったため、日付が変わる深夜0時を過ぎた後、マカオで唯一カジノ独占経営権を持つ「澳娯」が3か月のライセンス延長を獲得。

2002年2月9日、マカオ特別行政区政府は公開入札の結果、カジノ経営権を旧「澳娯」が新たに組織した「澳門博彩股份有限公司」(SJM)、「銀河娛樂場股份有限公司」(ギャラクシー)」、「永利渡假村(澳門)股份有限公司(ウィン・リゾート・マカオ)」の3社へ発給すると発表。マカオ政府はそれぞれ同年3月28日、6月24日、6月26日に3社との契約を締結する。同年12月、マカオ政府はギャラクシーとの間で締結した契約の内容を修正。ギャラクシー傘下の「サブライセンス」として「威尼斯人集團(ヴェネチアン)」へカジノライセンスを発給する。以降同様の方式により2005年4月20日にSJMのサブライセンスで「美高梅金殿超濠股份有限公司(MGM)」、2006年9月8日にウィン・リゾート・マカオのサブライセンスで「新濠博亞博彩(澳門)股份有限公司(メルコ・クラウン)」へのライセンス発給が行われた。

入札結果発表時点で、SJMを除く他のライセンス獲得各社は施設建設までの準備に時間を要するため、即時に営業を開始することができなかった。

ラスベガスサンズグループのシェルドン・アデルソン会長(資料)=2012年マカオにて撮影―本紙撮影
ラスベガスサンズグループのシェルドン・アデルソン会長(資料)=2012年マカオにて撮影―本紙撮影

2004年5月、ヴェネチアングループ初のカジノとして、アジア初となる米国資本による開発プロジェクト「サンズカジノ」がオープン。同年7月、ギャラクシー資本による初のカジノ「ギャラクシー・ワルド・カジノ」が開業。2006年9月には「ウィン」のカジノホテルとメルコ・クラウンによる機械式カジノ「モカ・スロット・カジノ」が開業。2007年5月にはメルコ・クラウンによる初のカジノとなる「クラウン マカオ(現アルティラ マカオ)」、さらに同年12月にはMGMカジノとホテルが全面営業を開始する。

2012年末時点で、マカオで営業するカジノは35軒あり、うち23軒がマカオ半島、その他がタイパ・コタイ地区に位置する。施設数ではSJMが20軒、ギャラクシーが6軒、ヴェネチアンが4軒、メルコ・クラウンが3軒、ウィンとMGMがそれぞれ1軒。

次のページ:
1 2 3

4

5

関連記事

Print Friendly, PDF & Email

最近の記事

  1.  マカオではアフターコロナで社会・経済の正常化が進んだ昨年(2023年)から歩行者による禁止場所で…
  2.  マカオ治安警察局は7月26日、マカオ警察総局による指揮の下、マカオの良好な治安環境の保護・維持を…
  3.  ユネスコのアジア太平洋地域世界遺産研修研究所は7月23日、第46回国連大会が開催中のインド・ニュ…
  4.  マカオ司法警察局は7月25日、マカオで覚醒剤の密売したとしてタンザニア人旅客の20代の男を逮捕し…
  5.  マカオ治安警察局は7月25日、カジノ施設が集積するマカオ半島新口岸地区にあるスーパーマーケットで…

ピックアップ記事

  1.  マカオ・コタイ地区にある大型IR(統合型リゾート)「スタジオ・シティ(新濠影滙)」運営会社は1月…
  2.  マカオ政府旅遊局(MGTO)が国際旅客誘致策の一環として今年(2024年)1月1日から実施してい…
  3.  豪華絢爛な大型IR(統合型リゾート)を中心としたカジノが目立つマカオだが、実は競馬、サッカー及び…
  4.  マカオの新交通システム「マカオLRT(澳門輕軌)」タイパ線の媽閣駅延伸部が12月8日に開業。マカ…
  5.  マカオ政府は6月17日、政府がコタイ地区の南東部に位置する約9万4000平米の国有地を活用し、約…

注目記事

  1.  去る12月23日夜、日本の歌手・近藤真彦さんがマカオ・コタイ地区にある統合型リゾート「MGMコタ…
  2.  マカオは面積約30平方キロ、人口約68万人の小さな街だが、コロナ前には年間4000万人近いインバ…
  3.  日本の三菱重工業は2月29日、マカオ政府公共建設局(DSOP)から、マカオLRT(Light R…
  4.  日本政府は8月22日、早ければ同月24日にも東京電力福島第一原発におけるALPS処理水(以下、処…
  5.  日本も出場した女子バレーボールネーションズリーグ(VNL)予選第2週のマカオ大会が5月28日から…
香港でのビジネス進出や会社運営をサポート

月刊マカオ新聞

2024年8月号
(vol.134)

マカオに取材拠点を置くマカオ初、唯一の月刊日本語新聞「マカオ新聞」。ビジネスと観光、生活に役立つ現地マカオ発の最新トピックを月刊でお届けいたします。記事紹介及び閲覧はこちらへ。

ページ上部へ戻る
マカオ新聞|The Macau Shimbun